遺産分割調停においては、出てくる人を減らすため、相続分の譲渡・相続分の放棄が行われます

 

 相続分の譲渡(民905)・相続分の放棄(条文なし。解釈上認められる)という手続きがあります。この手続きにメリットがある場面の1つとして、ものすごく人数が多い遺産分割調停があげられます。

 

 「わたしは遺産は、いらない~」という方は、遺産分割調停の流れの中で相続分の譲渡または相続分の放棄という手続きをふむことになります。そうすると、遺産分割調停にでていく必要がなくなります。裁判所も楽になりますね。

 

 このほか相続分の譲渡・相続分の放棄は、遺産分割調停のなかだけでしかできないわけではありません。相続分の譲渡・相続分の放棄が行われた場合の相続登記手続きについて以下ご説明いたします。

 

平成9年発行の熊本地方法務局発足50週年記念の登記決議集(改訂版)

平成9年発行の熊本地方法務局発足50週年記念の登記決議集(改訂版)

数次相続人間の相続分の譲渡と遺産分割協議の合わせ技で、相続登記1申請でオーケー

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この記事で言いたいこと

  • [状況] 相続分の譲渡をうけた者がいる場合の相続登記のはなし。
  • [結論] 実務上複数の登記申請がなされているところですが、1個の申請で大丈夫です(その分、報酬がひくくなるのでご依頼者にやさしいです)。
  • [理論] 実務上複数の登記申請がなされている理由は、『複数の登記申請はできますか?できますよ!』という登記先例があるからです。
  • [理論] 1個の申請でできる理論をご説明ください。
  • [実践] 1個の申請でできるというなんらかの登記先例など(登記官を説得する根拠)はありますか?→平成8年7月18日の熊本地方法務局で開催された登記事務打合せ会議(熊本地方法務局編集の熊本地方法務局発足50周年記念「登記決議集」に認められた事案が収録されています。

 

 

前提となる平成4年3月18日民三第1404号第3課長回答とは

(1)相続を原因とする乙・丙及び戊名義への所有権移転の登記

(2)乙持分について相続を原因とするB及びC名義への持分全部移転の登記(Aの印鑑証明書付相続分譲渡証書添付)

(3)丙持分について相続を原因とするX名義への持分全部移転の登記

(4)戊及ぴX持分について相続分の売買又は相続分の贈与等を原因とするB及びC名義への持分全部移転の登記を順次申請するのが相当である

 

平成4年3月18日民三第1404号第3課長回答の事案

 要するに、順番に登記しなさい!という登記先例なのです。被相続人甲がなくなったとき、すでに丁は死亡しているため最初の相続人は、乙、丙および戊です。そこからまたそれぞれの相続登記をしなさい、というものです。

 

 登記先例がそういっているならば、順番に登記するしかないんじゃないか?というところなのですが、雑誌「登記研究」536号157ページにこの登記先例に関する解説があります。BCで遺産分割協議(調停)をすれば「昭和42年11月19日乙相続、昭和44年8月21日相続」で直接BC名義への相続登記ができますよ、と。

 

 そして、登記先例の事案は、遺産分割協議(調停)がなされていないんですね。それならば、登記先例の事案では、順番に(複数回)登記しなさい!といっている理由もわかります。そうするしかないでしょう。

 

 逆に、BC間で遺産分割協議(調停)がなされたならば、1申請の相続登記でいけます!ということを次にご説明します。

 

相続分の譲渡・相続分の放棄をうけた者の地位は?

 

 相続分の譲渡・相続分の放棄をうけた者の地位はどういう立場なのか?については、最高裁平成13年7月10日判決があります。

 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。

このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。

 

 相続分の譲渡についての判例です。この中で、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、(中略)、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではないという判断があります。これはどういうことなのかといいますと、相続分の譲渡をうけた者も遺産分割の当事者の1人ですよ(遺産分割は全員参加しないとその効力が生じない)というものです。

 

 とするならば、登記先例の事案においても、平成3年10月1日の相続分の譲渡のあとで、BC間で遺産分割協議(調停)をすれば、全員参加の遺産分割となります。中間者を1人とする遺産分割としないといけないのですが、全員参加の遺産分割によって、「昭和42年11月19日乙相続、昭和44年8月21日相続」で直接BC名義への相続登記ができます、ということになります(ここは司法書士向けの説明になっています)。

 

まとめ

 

 今、所有者不明土地の問題が多くニュースに取り上げられています。そのなかには、相続人が膨大な数になりどうしようもないという不動産もあります。司法書士は、不動産と登記の専門家として、遺産分割調停の書類作成などをとおして、このような問題に取り組んでいます。またこの記事では、登記官によっても判断が分かれるような事案のときに、どのようにして登記官を説得するか?というテーマもありました。

差押禁止の意味を失わせる「預金の差し押さえ」を認めない!とは?

 

あけましておめでとうございます。

南関すみれです。

本年もどうぞよろしくお願いします。

本年の第1発目は

 

差し押さえ禁止の意味を失わせる「預金の差し押さえ」を認めない!

 

差押が禁止あるいは制限される財産があるということをご存知でしょうか?

たとえば有名なものとしては、給料です。

こちらは、差押が制限される財産ということになっています。

生きていくために必要な財産ということで、給料に対しては全額の差し押さえは不可、ということになっています。

こちらは民事執行法に規定があります。

その他、特別法において差押がまったく禁止される財産があります

たとえばその受給者の生活を守るという目的のため、公的な保護・援護等として支給される金品などを差押禁止とする法律が存在します。

 

差押禁止、差押制限財産を差し押さえる、ある方法とは?

 

ただ、ある方法を使うことにより、

差押禁止あるいは差押制限財産を法がもうけた目的が守られない

差押禁止あるいは差押制限をかいくぐって、差押が可能となる方法が存在します。

 

 

それは、いったん「預金」にはいるということです。

 

いったん「預金」通帳にはいってしまえば、お金の性質がかわる

もはやそれは差押禁止、差押制限財産じゃないんだーという考え方です。

 

この考え方は、最高裁判所平成10年2月10日判決において確認されています。

 

この判例をもって、今、自治体によって、いったん「預金」にはいった公的な給付をすぐ差し押さえるということが行われています。

 

これをくつがえす裁判例はないのか?

 

あります!

それが、鳥取県児童手当差押え事件判決

といわれる裁判例です。

 

どのような裁判例なのか?

 

これは、最高裁判所平成10年2月10日判決をふまえたうえで、

児童手当給付後すぐの預金差押えを

実質的には、児童手当を受給する権利自体への差し押さえと変わりがないと判断した裁判です。

 

そりゃあそうじゃろう!これは画期的な裁判じゃー

 

という、これはわたしの感覚ですが

最高裁判所平成10年2月10日判決と、鳥取県児童手当差押え事件判決の整合性を

どのように考えるのか?という問題は残ります。

 

現在のわたしの考えは、

差し押さえにより住民が生きていくことすらが困難になるような差し押さえは、これは本末転倒であるーーー

2つの判断は矛盾せず、自治体による差し押さえという事情がその判断におおきくかかわっていると考えています。

 

 

生活保護費を返還しなければならない状況とは?

 生活保護費を返還しなければならないという状況は、2つあります。

 

  • 生活保護法第63条
  • 生活保護法第78条

 

 

です。

 先に生活保護法第78条を説明しますと、これは不正受給についての条文です。これについては、まあ返さなければいけないかな?となるかと思います。ただ実際には「不正」といいうるには?という問題はあるのですがここでは簡単な説明にとどめておきます。

 今回ご説明するのは、生活保護法第63条です。

 

生活保護第63条の説明

 

 

 生活保護法第63条の返還の場面は、図をみていただくと、なんとなくお分かりになるでしょうか。生活保護をうけているあいだに、ベツクチでお金が入ってきた!という状況です。

 そのお金があるならば、生活保護費はその期間は、いらなかったよね!返してね!というものです。

 ですので、ベツクチのお金が入ってくるよりも前に、もらわれている生活保護費は、返還しなくてもよいのです。

 

 そして生活保護費を返さなくてはいけない場面であっても、その返す額として全額を返さなくてはならないのか?という問題が出てきます。

 結論としては、全額を返さなくてもよいという場面があるのですが、ここではひとまず飛ばします。

 内容としては、「自立更生計画」というものなのですが、ここでは省略いたします。

 1点だけ。この「自立更生計画」で全額を返す必要はないよという状況は、63条の返還の際はありますが、78条の返還ではありません。78条の返還は、原因が不正受給だからですね。

 

 今回は、資力の発生っていつ?ということをご説明します。

 これは、あとにずれ込んだ方が、生活保護を受給している方にとってはありがたいことなのですが・・・

 例えば、生活保護を受給している方が交通事故にあった場合、

 

  • 自賠責保険の適用による「慰謝料」・・・事故発生日
  • 慰謝料・・・確実に支払われると判断された時点(示談成立時日)

 

 

 このように、ベツクチのお金がなにか?というところで、それがいつ発生したことにしようという基準の日が変わります。

 

 自賠責保険の適用による「慰謝料」は、事故発生日が、資力が発生した日となります。

 これは、自賠責保険による慰謝料は、確実に入金があるだろうということで、じゃあその発生日は、事故発生日にしよう!ということなのだと思います。

 もう一方の、その他の慰謝料のほうの結論が、話としては分かりやすいかな?と。

 ベツクチのお金が入ってくる(資力の発生)よりも前に、もらわれている生活保護費は、返還しなくてもよい

 このことからお考えいただければと思います。

 

 その他、離婚に伴う慰謝料だとか、いろいろな資力が発生する状況があります。

 まずは、それぞれの原因ごとに、いつが資力の発生日なのかを考えます。

 その次に、今回はご説明しなかった「自立更生計画」でもって、返さなくてもよい金額(自立更生のために使うので、返しません!)という金額を考えることになります。

 

 

この記事を書いた人「南関すみれ」ちゃんは、司法書士・行政書士まつむら・まつなが事務所のマスコットキャラクターです。

〔司法書士・行政書士まつむら・まつなが事務所〕 司法書士のお仕事(の一つ)をご紹介します

司法書士のお仕事を紹介します

こんにちは。このたび、浦上司法書士事務所のホームページに寄稿させていただくことになりました、南関すみれと申します(司法書士・行政書士まつむら・まつなが事務所のマスコットキャラクターで、中の人は男性です)。

 

今回は、司法書士のお仕事として「ほほう、そんなこともやっているんだー」と思っていただけるかもしれないという、そんな業務を書こうと思います。まじめー。

 

それは、生活保護申請の同行です。

 

まだまだ、生活保護には悪いイメージを持っている方も多く、まず、生活保護をうけよう!と決心いただくまでに結構ハードルが高いという状況がまずあると感じるのですが(これはおかしいですよ!まず)

 

じゃあ頑張って生活保護の申請にいってみよう!となさるときに、受付窓口のほうで、コトバは悪いですが、水際作戦みたいなものはいまだあると思います。

 

そんなときに少しでもおチカラになれればということで、司法書士は生活保護の同行支援という業務を行っています。この記事は、担当のかたを悪者にするつもりはありません。理解あるすばらしい担当者もいらっしゃることは存じ上げています。そのような方からは是非教えを請うて、もっと支援につながるように勉強したいと思います。

 

また生活保護のイメージアップといいますか、制度を分かりやすくお伝えすることも大事かな?と思います。頑張って記事にしていこうと思います。

 

今後とも宜しくお願いします。(・∀・)

 

 

 

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